高脂血症 


第12回目は高脂血症です。
 
☆高脂血症とは?
  高脂血症とは血清中に含まれる体にとって必須であるコレステロールやトリグリセリド(中性脂肪)のいずれか、もしくは両方の値が異常に上昇した状態の事を言います。メタボリックシンドロームの回でも述べたように動脈硬化症の危険因子の代表的な原因と言われています。
 
1.背景&原因

  高脂血症に患う背景、原因として以下に示す事が挙げられます。
原発性高脂血症
はっきりした疾患や薬剤の影響がなく、家族の遺伝子などが関与していると考えられているタイプ。
 ・ 家族性高脂血症、家族性高コレステロール血症
 ・ 複合型高脂血症
 など
二次性(続発性)高脂血症
生活習慣などによる原因で起こる高脂血症のタイプ。
 原因として以下が上げられます。
1)内分泌代謝疾患
  糖尿病
  甲状腺機能低下症
  肥満
  妊娠
  痛風
 など
 
2)腎性疾患
   ネフローゼ症候群
  尿毒症
 
3)肝疾患
  肝炎
  胆汁性肝硬変
  アルコール、脂肪肝
 など
 
4)免疫異常、その他
   免疫疾患(全身性エリテマトーデスなど)
  薬剤性
  過食、飲酒
  運動不足
 など
 
 
2.高脂血症の検査値の目安

   高脂血症には高コレステロール血症、高TG(トリグリセリド:中性脂肪)血症、その混合型といった大まかに3種類に分けられます。以下にそれぞれの治療域となる検査値目安を示します。
  健康な人 高コレステロール血症 高LDL-C血症 高HDL-C血症 高TG血症
総コレステロール(TC)(mg/dl) 130~250 ≧220      
HDL-コレステロール(HDL-C) (mg/dl) 男性:37~50
女性:41~66
    <40  
LDL-コレステロール(LDL-C)(mg/dl) 80~140    ≧140    
トリグリセリド、中性脂肪(TG)(mg/dl) 30~150       ≧150
   
  検査値の役目
 
 脂質とコレステロールの体内での役目は体を維持するために必要なエネルギー源、そして、体を形成する細胞や内分泌ホルモン、脂肪の消化・吸収を助ける胆汁酸などの原料となっています。よって、ある程度の量は生命活動を維持するためには必要なのですが、その量が問題となっています。
 
 総コレステロール:Total cholesterols. 比重の異なるリポ蛋白の総称。以下におのおののリポ蛋白を説明します。脂肪酸と結合しているエステル型コレステロールと脂肪酸と結合していない遊離型コレステロールの2種類で存在し、これらを併せて総コレステロールと呼びます。
 
  HDL-コレステロール :High density cholesterol. 一般に善玉コレステロールと呼ばれるタイプです。比重により、HDL2、HDL3に分画されます。肝臓と象徴の両方で合成されますが、HDLコレステロールは血管壁に付いている余分なコレステロールを取り除いて肝臓へと運ぶ作用があり、この値が低くなると動脈硬化へ進行します。
 
 LDL-コレステロール:Low density cholesterol. 一般に悪玉コレステロールと呼ばれるタイプです。コレステロールを肝臓から全身に送る役目をしています。しかし、増えすぎるとLDLに含まれるコレステロールが血管壁に付着し、動脈硬化を起こしやすくします。
 
   LDL-コレステロールは直接検査して得る方法と以下の式から求める方法があります。
LDL-コレステロール=総コレステロール-HDL-コレステロール-(中性脂肪/5)
      ※ただし、中性脂肪が400mg/dl未満の場合)
LDLの中でもサイズが特に小さいリポ蛋白が存在します。それがVLDLです。以下にVLDLを説明します。
 
 VLDL-コレステロール:Very low density cholesterol. LDL-コレステロールの中でもサイズが小さく、比重が高いタイプです。超悪玉コレステロールと呼ばれておりますが、中性脂肪を多く含んでいます。粒子サイズが小さいために血管壁に侵入しやすくなります。また、抗酸化物質をあまり持っていないため、動脈硬化の直接の原因である酸化LDLになりやすい特徴があります。このタイプが特に動脈硬化の進行を促進します。
 
3.動脈硬化の脂質の関係
 
  1.  血液中のコレステロール値が高くなるとLDL、VLDLが増加します。更に、高血圧などにより、障害を受けた血管壁にこれらのコレステロールが侵入します。
                 
  2.  血管壁に侵入したコレステロールは体内の活性酸素などにより、酸化されて、「酸化LDL」になります。
                 
  3.  酸化LDLは体の中では異物と認識され、マクロファージ(白血球の一種)に取り込まれます。
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  4.  マクロファージに取り込まれた酸化LDLは血管壁に蓄積し、瘤(こぶ)をつくります。こぶがおおきくなると血管が細くなり、狭心症へと進行し、血管は硬くなり、動脈硬化と診断され、更にひどくなると血管が詰まってしまい、心筋梗塞となってしまいます。
 
4.対策
 
  1.  定期的な運動(医師及びスポーツコンストラクターと相談するとよいでしょう)
  2.  禁煙・飲酒を控える(喫煙・飲酒をしている人)
  3.  食生活の改善(以下参照)
 
 高脂血症の食事療法
 
   1.  適正エネルギーをとって標準体重を維持する。
   2.  塩分を10g以下にする。高血圧を合併している人は6~7g以下
   3.  バランスのよい脂肪の摂取(飽和脂肪酸/1価不飽和脂肪酸/多価不飽和脂肪酸=1/1.5/1がのぞましい
   4.  バランスのよい食事
   5.  食物繊維、ビタミン、ミネラルの摂取
   6.  中性脂肪の高い人は果糖、ショ糖は控える
   7.  よくかむ癖をつける。
   8.  1日3食きちんととり、間食を減らす。
   9.  夕食は控えめに(夜にコレステロール、中性脂肪は作られます)
 
標準体重の求め方:標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
 
 コレステロールは1日300mg以下に抑えましょう
 
コレステロールを多く含む食品の常用量の目安(例)

食品 目安 コレステロールの量(mg)
するめいか 中1尾 675
フォアグラ 1人前 390
いか焼き 1人前 328
1個 252
いか 生:刺身1人前 240
うなぎ 1串 230
鶏レバー 1人前 222
数の子 1個 185
たらこ 小1腹 170
すじこ 大さじ1杯 102
しかし、コレステロールを含む食品は良質のたんぱく質を持っているのでむやみに制限せず、食物繊維とともに摂取するようにしましょう。

脂肪の種類

飽和脂肪酸 肉類、バター、ラードなどのパルミチン酸、ステアリン酸など
1価不飽和脂肪酸 オリーブ油、なたね油などのオレイン酸など
多価不飽和脂肪酸
ω-3系(α-リノレン酸や魚の油のEPA、DHAなど)
ω-6系(植物油などのリノール酸
 
EPA、DHAを多く含む魚(例)
 
目安 EPA(mg) DHA(mg)
はまち 刺身1人前 1.2 1.4
さば 1切れ 0.8 1.3
にしん 小1尾 0.7 0.5
ぶり 1切れ 0.6 1.3
さんま 中1尾 0.5 0.8
こはだ 中1尾 0.5 -
いわし 1尾 0.4 0.3
さけ 1切れ 0.4 0.6
さわら 1切れ 0.4 0.8
ほんまぐろ 握りずし1個 0.3 0.6
 
食物繊維を多く含む食品(例)
 
食品 目安 食物繊維
かんてん みつ豆1人分 1.0
ひじき 煮付け1人分 4.3
干ししいたけ 大1枚 2.6
ずいき 煮物1人分 5.3
切干大根 煮物1人分 2.0
インゲン豆 煮物1人分 2.7
ごぼう 煮物1人分 3.3
ほうれん草 おひたし1人分 2.6
たけのこ 煮物1人分 2.6
こんにゃく 1/2枚 1.1
みかん 中1個 1.5
  
◎ トリグリセリドの値が高い人は
1.1日摂取カロリーを標準体重1kgあたり、25~30Kcalに抑える
2.アルコール、タバコを控える(日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本程度)
3.炭水化物、果物、お菓子などの取りすぎ注意!
4.食物繊維を1日10g以上
5.魚油(EPA,DHA)を多く含む魚をできるだけ取り、肉類は控える
 
◎ 総コレステロールの値が高い人は
1.1日摂取カロリーを標準体重1kgあたり、25~30Kcalに抑える
2.1日コレステロール摂取量を300mg以下
3.食物繊維を1日10g以上
4.常温で固まっている脂をとり過ぎない
 
◎ HDL-コレステロールの値が低いひとは
1.1日摂取カロリーを標準体重1kgあたり、25~30Kcalに抑える
2.禁煙
3.軽い運動の継続
4.EPAの多い魚をとる
 
5.薬物治療
 
上記の生活習慣(運動、食事など)でも改善できない場合には高脂血症の薬物治療が始まります。リスクファクター(加齢、高血圧、糖尿病など)の合併の数や、冠動脈疾患を患っているなどの条件によって薬物療法の治療するコレステロールの目安の値が変わります。薬物治療を行っているときも治療効果を挙げるために生活習慣の改善を継続することが必要です。
 
5-1.HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)
 
作用 肝臓におけるコレステロール合成の酵素(HMG-CoA)を阻害し、コレステロー ルの合成を抑制します。
特徴
 LDL-コレステロールを最も効果的に低下させます。
HDL-コレステロールの値を上げ、中性脂肪も低下させます 。
狭心症や心筋梗塞の高い予防効果が期待できます。
 
5-2.フィブラート系薬剤(CPIB)
 
作用 中性脂肪、VLDLの低下作用があります。新しい薬剤では総コレステロールも低下させます。
 
5-3.ニコチン酸および誘導体
 
作用 VLDL産生低下によりLDL、中性脂肪を低下させ、HDLを上昇させます。
 
5-4.陰イオン交換樹脂
 
作用 腸管内で胆汁酸を吸着し、コレステロールを体外へ排泄させます。胆汁酸の再吸収が阻害されるので肝臓でのコレステロールが消費されて、LDLを低下させます。
 
5-5.ブロブコール
作用 コレステロールから胆汁酸への排泄促進。LDLを低下させる。
特徴 総コレステロールを低下させる以外に、抗動脈硬化作用があります。
  
5-6.植物ステロール 
特徴 コレステロール、中性脂肪を低下させる作用は高くないが補助的に使用されます。
 
5-7.EPA製剤
作用 中性脂肪の腸管からの吸収を抑制及び、肝臓での整合性を抑制し、中性脂肪を低下させます。コレステロールも同様で、総コレステロール値を低下させます。
特徴 血液サラサラ成分でもあります。

5-8.小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
作用 小腸においてこれらの胆汁性および食事性コレステロールの吸収を選択的に阻害することにより、血中のコレステロールを効果的に減少させます。

まれに副作用が出ることもあります。定期的に肝機能などのチェックを受け、気になる症状が出たら、即、医療従事者に相談しましょう。
 
6.最後に
 
  高脂血症は動脈硬化、メタボリックシンドロームに深く関与しています。定期的に健康診断を受けて、コレステロールや中性脂肪が高い場合は早めに医療機関に受診し、早期改善により、健康な生活を送りましょう。