更年期障害
第8回目は更年期障害です。
☆‘‘更年期’’って何?
医学的には、「卵巣の機能が衰え始め、最終的にその機能が停止する時期」とされています。そのため「閉経する時期」とか「妊娠可能な期間を終える時期」ともいえます。人に限らずどんな生物も持っているはずの一時期ですし、思春期や成熟期など同じように誰もが通り過ぎる一時期でもあります。具体的には40歳すぎから55歳ぐらいまでをさします。更年期というとほとんどの方が、更年期症状を伴った何年間かの人生の過渡期・・・といったイメージしかもっていません。ところが老年期の骨粗鬆症や動脈硬化症、さらには一部の痴呆症は、この更年期にこそ注意しておかないと、取り返しのつかないほど悪化してしまいます。これらの病気は、高齢女性の「寝たきり」や「死亡原因」のトップを占めています。ですから、この時期には更年期症状を押さえることとともに、更年期に起こる様々な生理的変化を理解して、具体的な対処法を考えておきましょう。
1.‘‘生理的変化’’って?
女性の体には、月経をほぼ毎月起こすホルモンの流れがあります。このホルモンの流れは、中枢神経と卵巣の働きによってほぼ決まったリズムを女性の体に生み出しています。思春期には、女性の体の基本的な働きが一斉にスタートし、子供から大人への劇的な変化をします。その後の女性に暮らしや精神面のすべてに直接関わるのは、内性器のひとつである卵巣です。思春期以降、脳の指令を受けて卵巣から周期的に出るいくつかのホルモンとそのバランスが、心身の健康に大きく影響してきたのです。
周期的な女性ホルモンの分泌
閉経前の女性の体では、卵胞ホルモン(エストロゲンE)と黄体ホルモン(P)の二種類の女性ホルモンが、下図のように周期的に分泌されています。
卵巣の働きは、40歳代に入ると、その主な機能である排卵やホルモン分泌が、次第に低下しはじめます。二つの女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体時ホルモン)の減少が原因で、その影響が身体面や精神面にいろいろ現われてくるのが更年期の症状です。
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卵巣の働き
1. |
循環器・脂質代謝に |
心臓や血管の病気にかかりにくくします。 |
2. |
骨に |
骨代謝に関わって骨を強くします。 |
3. |
体温に |
体温調節中枢に働きかけて、基礎体温を2層にします。 |
4. |
皮膚に |
コラーゲンを増し張りのある肌を作ります。 |
5. |
生殖器に |
妊娠・出産にむけて、器官を成熟させ全体に働きかけます。 |
6. |
乳房に |
乳房を発達させふっくらとした形を保ちます。 |
いわゆる更年期症状は、自律神経失調症とかなりの部分がオーバーラップしています。自律神経は体の安定を保つために、脈拍や血圧、さらには発汗などによる体温調節や腸の働きに至るまで、ありとあらゆる機能を調節しています。しかも自分の意識とは関係なく“自律”して働き続けています。
卵巣の規則的な変化も自律神経も、コントロールしているセンターは、脳の下にある視床下部と呼ばれる器官にあります。さらには、感情を調節しているセンターも視床下部にあります。
これらのセンターは、密接に影響しあいながら働き続けています。更年期に卵巣機能が落ちてホルモンのセンターが乱れると、自律神経はもちろんのこと、感情までもがアンバランスになってしまうのです。
つまり“更年期症状”はエストロゲンが減ってしまうために起こる自律神経失調症といえます。
2.‘‘更年期障害’’って 何?
「更年期の生理的変化のために起こるさまざまな障害」をさします。卵巣そのものの機能低下、つまりエストロゲンが出なくなることが中心となって引き起こされます。
更年期障害は次の2つに分けることができます。
1. |
早期に出現する「ほてる」「のぼせる」「冷える」「動悸」「異常な発汗」など、おもに自律神経失調症に関係するもの。 |
2. |
何年か遅れて発病する骨粗鬆症、高脂血症、皮膚の萎縮や色素沈着、関節疾患などおもに代謝障害に関係するもの。 |
あなたの “更年期度”をチェックしてみましょう
症 状 |
症状の程度(点数) |
強 |
中 |
弱 |
なし |
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10 |
6 |
3 |
0 |
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10 |
6 |
3 |
0 |
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14 |
9 |
5 |
0 |
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12 |
8 |
4 |
0 |
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14 |
9 |
5 |
0 |
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12 |
8 |
4 |
0 |
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7 |
5 |
3 |
0 |
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7 |
5 |
3 |
0 |
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7 |
4 |
2 |
0 |
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7 |
5 |
3 |
0 |
(東京医科歯科大学更年期外来)
0~25点 異常なし |
26~50点 食事、運動に注意 |
51~65点 更年期・閉経外来を受診 |
66~80点 長期の計画的な治療 |
80~100点 各科の精密検査、長期の計画的な対応 |
3.更年期障害のおこる時期は?
1 更年期症状(不定愁訴) ・・・・・ 閉経前後の数年間
2 泌尿生殖器の不快感 ・・・・・ 閉経から1~5年
3 骨粗鬆症 ・・・・・ 閉経から約10年
4 動脈硬化症(高脂血症) ・・・・・ 閉経から約10年
更年期症状 |
更年期におこるものの中で、一般的な診察や検査所見では異常の見つからない自律神経失調症を中心とした不定な症状を訴える状態。
狭い意味の更年期障害
場合によってはホルモン補充療法で、障害の予防や症状を改善することができます。 |
骨粗鬆症 |
骨から主成分のカルシウムが溶け出し、骨組織が減った状態。骨の中がスカスカになり、もろくなります。
全身の骨が骨折しやすくなります。これは歩行障害などを起こし、「寝たきり」の大きな原因となります。この病気では骨折するまで自覚症状がほとんどありません。
エストロゲンの骨代謝に対する作用
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カルシウムを骨につなぎとめるコラーゲンを助ける
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骨を形成する骨芽細胞を助ける
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骨を破壊する破骨細胞を抑える
-
副甲状腺ホルモンの骨吸収作用を抑える
予防
骨量の測定結果をもとに積極的に予防に取り組みましょう。カルシウムやビタミンD の摂取を心がけ、1日30分 程度日差しを浴びて歩きましょう。運動は体の活動量を活発にして、筋肉や骨を丈夫にします。
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高脂血症 |
血液の中の脂質が病的に多い状態。
総コレステロール 220~240mg/dl以上・中性脂肪 150mg/dl以上の血液中の脂質が多すぎると、その中のLDLコレステロールが変性して動脈壁に沈着し、動脈硬化の原因となります。高血圧や虚血性心疾患、脳卒中などを引き起こす原因の一つです。
エストロゲンの脂質代謝に対する作用
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LDLコレステロールの分解と排泄を促進
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LDLコレステロールの変性を抑える
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HDLコレステロールの合成を促進
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HDLコレステロールの分解を抑える
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エストロゲンはコレステロールから作られるので、それ自体がコレステロールを消費する
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老人性痴呆 |
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①脳血管障害型痴呆症 |
脳梗塞や脳内出血などが原因で、脳組織が破壊されたり、血流障害のために十分な酸素や栄養分が行き渡らず、脳細胞の機能が低下するもの。 多くは高脂血症による動脈硬化を介しています。 |
②アルツハイマー型痴呆症 |
脳そのものが萎縮。進行性の記憶障害や神経障害、人格崩壊などを特徴とする原因不明の脳変質性疾患。 |
③特徴 |
男性では脳血管性の痴呆症が多いのに対して、女性ではアルツハイマー型痴呆症が多く見られます。女性では、閉経によって卵巣からエストロゲンが分泌されなくなることが、アルツハイマー病発症のひとつの引き金になるのではないか、と考えられています。 |
4.‘‘更年期障害’’の恐ろしさ
このように更年期障害は更年期症状だけでなく、骨粗鬆症や高脂血症と密接に関係しています。また脳の老化現象との関係も明らかにされつつあります。
これからの病気は発症するまでに10~20年かかりますから、閉経後の人生が短い時代はあまり問題になりませんでした。ところが、最近の閉経後の人生は30年あまりあります。
医学の進歩により、他の多くの病気が克服されてきました。しかし更年期障害に対する治療はなかなか進んできませんでした。そのために高齢の女性を悩ます深刻な病気に更年期障害が関係するようになってきてしまいました。
日本女性の平均寿命は83歳を超え、世界一を保ち続けています。約10年前には2000万人だった閉経後の女性の人口は、今後10年で1.5倍の3000万人に達するといわれています。そして、日本の総人口が2008年以降減少すると言われている中で、65歳以上の老齢者の割合は2050年には30%を超えると推定されています。このような状況下で高齢者が今までどおりに国や自治体の援助を受け続けることは難しく、可能な限り 自立することを要求されるでしょう。
食事や運動に気をつけ、老年期をより快適で健康に過ごすために、早い時期から準備しておくことが大切です。