髄膜炎について
お子様の病気の中でも重篤な病気の一つに髄膜炎があります。初期症状が風邪と見分けがつかないので特に注意が必要です。髄膜炎は脳を覆う「軟膜」「クモ膜」「硬膜」に炎症を引き起こす病気のことです。髄膜炎には、大きく分けて「細菌性髄膜炎」「無菌性髄膜炎」の2種類のタイプがあります。
「細菌性髄膜炎」
インフルエンザ菌、肺炎球菌などの細菌が原因で生じる髄膜炎で、進行も早く、脳の後遺症や死亡にまで発展してしまう恐ろしい病気です。特に乳幼児期には髄膜炎以外にも様々な疾患にかかるケースが多いため、他の病気と勘違いしやすい傾向があります。
「無菌性髄膜炎」
主にウイルスが原因とされる髄膜炎で、子供の脳炎の殆どが何らかのウイルスが原因の無菌性髄膜炎です。比較的軽症で後遺症の残る可能性も低いといわれております。他にも真菌性、寄生虫などが原因となります。
■細菌性髄膜炎について
初めは熱の症状から始まるため、風邪と見分けがつけづらいです。インフルエンザ菌、肺炎球菌などの菌が血液中に入り中枢神経に達して髄膜等に炎症を起こすことで発症します。
乳幼児期にかかりやすいため、まだ言葉の喋れない乳幼時に関しては保護者の方が注意して様子を確認しなければならないでしょう。特に免疫力のない生後半年〜2歳くらいまでは気をつけた方がよいです。ここ数年で髄膜炎の原因菌である肺炎球菌やヒブ(インフルエンザ菌b型)ワクチンの予防接種も受けられるようになり、後遺症の残りやすい菌とされる肺炎球菌による髄膜炎は減少しつつあります。
症状・兆候について
細菌性髄膜炎の兆候として、発熱、項部(首の後ろ)硬直、意識障害が髄膜炎の3徴候と言われていますが、すべてを満たすのは髄膜炎の4割程度です。この3徴候以外に早期発見のための症状のポイントとして以下のものがあげられます。
●けいれん
●ぐったりする
●頭痛
●嘔気、嘔吐
乳幼児に多い症状としては他に
●意識、呼吸障害がある
●よく眠るか、ひどく機嫌が悪い
●活気がない
があります。
乳幼児が細菌性髄膜炎を発症した場合、死亡率が5%近くあり、後遺症が残る確率は15%とされています。発症後24時間以内に病気がピークになる事が予測されるため、その前の早期発見や早期治療が必要になるでしょう。
診断と治療・予防法
背中から髄液を採取します。髄液に細菌が認められれば、細菌性髄膜炎とされます。さらに、CTやMRIなどによる精密検査では脳や脊髄の腫れや浮腫みなどを診断します。
治療法としては、薬物療法、主にカルバペネム系(メロペネムなど)、第3世代セフェム系抗生物質などを投与します。原因菌の結果を待たずに予測される菌に対する抗生物質から順に静脈投与していきます。また症状の程度によっては副腎皮質ステロイドを使用することもあります。
予防法としては近年義務付けられている肺炎球菌ワクチンやヒブワクチンなどの予防接種を受けさせる事が大切です。2013年からは公費負担で接種可能になり、予防接種を受ける子供の数は増え、細菌性髄膜炎を発症する数は減りつつあります。
■無菌性(ウイルス性)髄膜炎について
幼稚園や学校などで咽頭痛を伴う「ヘルパンギーナ」や手足の水膨れが特徴の「手足口病」が流行るころに生じやすいです。これらの病気が流行るのは夏時期ですが、安易にただの夏風邪と考えずに、その裏に髄膜炎が潜んでいるかもしれません。
手足口病やヘルパンギーナなどの原因ウイルス である「エンテロウイルス属」が無菌性髄膜炎の主な原因ウイルスです。また、おたふく風邪のウイルス「ムンプスウイルス」も無菌性髄膜炎を引き起こす病原体です。
潜伏期間と主な症状について
エンテロウイルスの場合は、3日〜6日程度の潜伏期を経て発症します。
ムンプスウイルスは16日間程度の潜伏期があり、潜伏期は短期のものから長期のものまでそれぞれです。
主な症状として、発熱・頭痛・嘔吐などが見られます。以下は子供が髄膜炎にかかっているかをチェックする主な項目になります。以下の症状が全て出るわけではありませんが疑わしい項目があれば、すぐに小児科や救急病院を受診しましょう。
●項部強直がある
●生あくびが出ている
●発熱が続く
●頭痛が続く
●嘔気、嘔吐が続く
●顔色が悪い
●ぐったりしている
●意味不明のことを言う
●意味不明の行動をとる
●意識が朦朧としている
●痙攣がある
●目の焦点が合わない
●発疹がある
●首の後ろが浮腫む
●光に敏感になる、まぶしさ
●ミルクや母乳の飲みが悪い
●機嫌が悪く泣いてばかりいる
髄膜炎の症状の中で最も代表的な症状は項部の強直ですが、例えこの症状が認められなくても原因不明の熱や頭痛が続けば髄膜炎を疑いかかりつけ医の診断を受けましょう。また、熱性痙攣の症状とよく似ているため、熱性けいれんが生じたら脳炎や髄膜炎を疑うべきです。
無菌性髄膜炎の場合、気づかずにいても自然完治する確率が高いですが、頭痛、 嘔吐、熱などの症状が落ちつくまでは医師の治療法に従い、完治までしっかりと治療を続けるべきです。症状が落ちついた事を医師が認め、許可すれば、通園、通学ができるようになるでしょう。無菌性髄膜炎が完治した後も便の中にウイルスが排出されている事も少なくないため、人に移さないためにも予防はしっかりしなければならないでしょう。
診断と治療・予防法
血液検査や髄膜液の検査により、無菌性か細菌性かを調べます。
咽頭のぬぐい液や便検査などで何のウイルスが病原体となっているかを検査します。
治療法としては無菌性髄膜炎に対する特効薬のようなものはなく、嘔吐による脱水症状ならば点滴治療を施したり、熱に対しては解熱剤を用いるなどの対症療法を行います。軽症の場合は自宅療養で2週間安静にしていると回復しますが、経過が思わしくない時は、入院治療で経過を見ることになります。
また、予防法としてはおたふく風邪の病原体であるムンプスウイルスなどの予防接種は任意で行う事が可能です。他のウイルスに対しては予防接種はないので、通常の感染症対策と同様、下記のような感染対策を実施します。
・手洗い、うがい(指、爪の間などを念入りに)
・オムツなどはビニールなどに密閉して捨てる
・飛沫感染を防ぐために夏風邪やおたふく風邪が流行時にはマスク装着
・人混みを避ける
まとめ
髄膜炎には、比較的軽症で完治しやすい無菌性髄膜炎と後遺症や致死に繋がる細菌性髄膜炎の2つがあります。特に、細菌性髄膜炎は死亡や後遺症のリスクを減らすためにも、早期発見、早期治療が重要になります。発熱、頭痛、嘔気・嘔吐など風邪に似た症状があり判断が難しいのですが、「いつもと何かが違う」という感覚が大切でしょう。
お子さんの普段の様子をいつもみている保護者の方が、「風邪症状だけど、いつもと様子が違う」と思った場合は、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。