エキノコックス症とは

 
 エキノコックス属条無視の幼虫(包虫)に起因する疾患で、陣田各臓器特に肝臓、肺臓、腎臓、脳などで包虫が発育し、諸症状を引き起こす。ヒトには、成虫に感染しているキツネ、イヌなどの糞便内の虫卵を経口摂取することで感染する。
わが国のエキノコックス症には、その原因寄生虫種により単包性エキノコックス症(単包条虫)と多包性エキノコックス症(多包条虫)がある。近年、多包性エキノコックス症が、北海道東部から北海道全域へと伝播域を拡大しつつあり、国民の健康に脅威を与える感染症となっている。そのために感染症法では、エキノコックス症を4種類感染症全数把握疾患に指定し、全患者発生例の報告を義務付けている。
 
疫学
 現在問題となっている多包性エキノコックス症の病原である多包条虫は、もともと北海道に分布していたのではなく、20世紀になってからヒトとモノの盛んな交(流)通を背景として、北方諸島から侵入してきたものであると考えられている。最初の流行は、毛皮と野ねずみの駆除とを目的として移入されたキツネに多包条虫感染個体がいたことから、礼文島で発生した。1937年から1965年までの間に、島民役8,200のうち患者数114名を記録したが、1950年代以降の徹底した対策によりこの流行は終焉した。一方、1965年の患者発見から始まる根室・釧路を含む北海道東部地方での流行は、北方諸島を中部千島まで人為的に移動させられたキツネが流氷を介して北海道に侵入し、その中に感染キツネが含まれていた事に端を発していると推定される。この流行は1997年までに累計患者数146名を数え、現在でも毎年数名の新しい患者が見出されている。
 
病原体
 エキノコックス症は虫卵を経口摂取することでのみ感染する。
 多包条虫は、自然界ではキツネ、イヌを終宿主(成虫が寄生)とし、中間宿主(幼虫が寄生)を野ネズミとして生活環が維持されている。この生活環で、ヒトやブタは中間宿主にだけなりうる。したがってヒトからヒトへの感染、あるいは、例えば多包虫寄生のブタ肉の摂食を介してヒトに感染することはない。ヒトが虫卵を口から摂取すると幼虫が虫卵から出て腸壁に侵入し、血流あるいはリンパ流に乗って身体各所に運ばれて定着・増殖する。
 
臨床症状
 本症の感染初期(約10年以内)は、無症状で経過することが多い。
 単包性エキノコックス症では、孤立性の嚢胞がゆっくりと増大して肝腫大や腹痛を認め、周囲の諸臓器を圧迫し、胆道閉塞や胆管炎を併発したり、ときに破裂する。
 多包性エキノコックス症では、約98%が肝に一次的に病巣を形成する。肝に生着した微小嚢胞が外生出芽によってサボテン状に連続した充実性腫瘤を形成し、進行すると肝腫大、腹痛、黄疸、肝機能障害などが現れる。さらに進行すると胆道、脈管などの他臓器に浸潤し、閉塞性黄疸、病巣の中心壊死、病巣感染をきたして重篤となる。末期には腹水や下肢の浮腫が出現する。肝肺瘻をきたすと胆汁の喀出、咳嗽が認められ、脳転移をきたすと意識障害、けいれん発作などを呈する。
 
病原診断
 上のような臨床症状をもつ患者について、画像検査(超音波、CTなど)により病巣部の所見が得られたとき、または上記の患者で免疫血清学的検査(ELISA法、Wetern Blot法等)により陽性となったとき、本症と診断される。あるいは、臨床症状がないまま免疫血清学的検査により陽性となった場合には、継続観察の必要がある。流行地での居住歴、キツネ、イヌなどとの接触の有無は重要な参考となる。確定的な診断は、手術材料から包虫を検出することによる。生検は病巣腹腔内や穿刺創への播種、定着をきたすので、他の肝腫瘍性病変との鑑別上必要な場合を除き、原則として行わない。
 1999年4月からの感染症発生動向調査での届け出例を診断根拠別に解析すると、組織検査(病原体)と地清検査(抗体)の両方あるのが10例(25.0%)、組織検査はあるが血清検査がないのが7例(17.5%)、血清検査はあるが組織検査がないのが19例(47.5%)、組織検査、血清検査のどちらもないのが4例(10.0%)であった(当研究所感染症情報センターによる)。報告に関しては組織検査あるいは血清検査が前提とされるので、疑い症例については、確定診断に関して北海道立衛生研究所または当研究所寄生動物部などに御相談頂きたい。
 
治療・予防
 外科的切除が唯一の根本的治療法であり、早期診断された時の予後は良好であるが、進行病巣の完全切除は困難なことがある。したがって、なによりも予防に重点が置かなければならない。個人のレベルでの予防は、感染源となるキツネやイヌなどの保虫宿主に接触しないようにし、虫卵に汚染されている可能性のある飲食物の摂取を避けることである。
 公衆衛生上では媒介動物対策、上水道対策が基本となる。
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