アトピー性皮膚炎とは



アトピー性皮膚炎は、皮膚に炎症が起こり、強いかゆみを伴う湿しんができて、"よくなったり悪くなったり"を繰り返す
慢性疾患です。

乳幼児期に始まったアトピー性皮膚炎が成人期まで続くこともあり、中には成人になってから始まる人もいます。喘息、
アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎など他のアレルギー疾患が同時に見られることが多いです。

健康な皮膚では、最も外側の角質層に多くの細胞が層状に並び、バリア膜をつくっています。このバリア膜が体内の水分が
外に逃げるのを防いで皮膚の潤いを保ち、同時にさまざまな刺激物が侵入するのを防いでいます。
アトピー性皮膚炎がある場合、遺伝的な体質(アトピー素因)によって、皮膚のバリア膜が弱くなっているため、汗やほこり
などのさまざまな刺激物が入りやすくなっています。そのため炎症が起こり、湿しんができて強いかゆみが生じるのです。

 
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●標準治療

 

アトピー性皮膚炎の治療では、科学的に有効性が証明された標準治療を行うことが重要です。標準治療では
「スキンケア」「薬物療法」「悪化因子の除去」が3つの柱です。

1.「スキンケア」
まず、入浴で皮膚を清潔に保ち、保湿用外用薬を使って皮膚の乾燥を防ぎます。皮膚を潤いのある状態に保つことが、
症状の改善につながります。

適度な清潔を保つ

入浴、シャワー 
通常は1日1回の入浴またはシャワーを
夏場やスポーツ後に汗をかいた時は、そのまま放置しない
入浴やシャワーができないときは、ぬれたタオルで汗を拭く

 入浴の際には、「優しく洗う」「傷のある部位も洗う」「ぬるめのお湯でしっかりすすぐ」「タオルで抑えるように拭く」という
点に注意しましょう。せっけんをよく泡立て、その泡を手に取り、手で軽くなでるようにして体を洗います。重症になり
せっけんの刺激だけでもヒリヒリする場合には、湯だけで洗うとよいでしょう。熱い湯で洗い流すと皮脂が失われるので、
湯はぬるめにします。


保湿
アトピー性皮膚炎の患者さんは皮膚のバリア機能が弱くなっているため、皮膚を乾燥させないように、入浴後は15分以内
を目安として汗がひいたら早めに保湿剤を塗るようにし、そのほか、起床時や肌の乾燥が気になった時に、こまめに塗ると
よいでしょう。保湿剤を塗る回数や量は部位や症状によって異なるので、お医者さんの指示通りに使うようにしましょう。

ステロイド外用薬や免疫抑制剤外用薬による治療で皮疹が改善したときに保湿剤によるスキンケアまで中断すると、皮疹
が再燃しやすくなるため、皮疹の程度にかかわらず続ける必要があります。
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2.「薬物療法」
アトピー性皮膚炎による皮膚の炎症やかゆみを抑えるためには、くすりによる治療が必要になります。治療に使われる
くすりには、塗り薬(外用薬)と飲み薬(内服薬)とがありますが、重症度に応じたくすりの選び方や使い方については、
お医者さんとよく相談しましょう。くすりの使用をやめるときにも、お医者さんへ相談してください。

 

・塗り薬(外用薬)

ステロイド外用薬
ステロイド外用薬は、皮膚の炎症を抑えるために、もっともよく使われているくすりです。くすりの強さは5段階あり、症状に
合った強さのくすりを使うことが重要です。

ステロイド外用薬は、保湿外用薬を塗ったあとに、炎症や傷のある部位に重ねて塗ります。ステロイド外用薬の軟膏の
場合は「大人の人さし指の先から第一関節まで出した量(フィンガー・チップ・ユニット)を、大人の手のひら約2枚分の面積
に塗る」のが適量です。皮膚に"ちょんちょん"と配分し、しわに沿って皮膚にのせるようにして塗ります。皮膚の赤みが取
れても、つまんでみて硬ければ炎症は治まっていません。担当医と相談し、徐々に量を減らしながら、皮膚が軟らかくなる
まで塗り続けます。


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免疫抑制剤外用薬
中程度のステロイド外用薬と同じくらいの症状を抑える効果があり、長い期間使っても皮膚の萎縮や血管拡張を起こさない
メリットがあります。からだ全体に使いますが、特に皮膚の薄い顔や首などによく使われます。

保湿外用薬やステロイド外用薬を塗る量や塗り方が不適切だと、効果が十分に得られなかったり、症状が悪化しやすく
なったりします。また、少しよくなったからとステロイド外用薬を途中でやめてしまうと、再び悪化してしまいます。
標準治療の正しいケアを身につけ、適切に続けることが大切です。




・飲み薬(内服薬)

かゆみを抑えるくすり ~抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬
アトピー性皮膚炎の多くは、激しいかゆみを伴います。かゆみを抑えるために、抗ヒスタミン薬や、抗ヒスタミン作用のある
抗アレルギー薬の内服を行います。掻くことによって皮膚表面が傷つくと、皮膚のバリア機能を低下させ、皮疹が悪化して
さらにかゆみが増してしまいます。これは「かゆみの悪循環」と呼ばれ、アトピー性皮膚炎を悪化させる大きな要因です。
かゆみを抑える治療はアトピー性皮膚炎の根本治療ではありませんが、とても重要です。

 

ステロイド内服薬
アトピー性皮膚炎の治療では、まれに重症~最重症の患者さんに対して内服薬のステロイドを使用することがあります。
ステロイド内服薬には全身的な副作用があるため、投与するのはごく短期間です。

 

免疫抑制剤内服薬
従来の治療法で十分な効果が得られなかった、重症~最重症の大人の患者さんに対して使われるくすりです。湿疹と
かゆみに対して効果があります。使用期間はできるだけ短くし、湿疹の改善後は通常の塗り薬による治療を行います。

 


3.「悪化因子の除去」
アトピー性皮膚炎は「ストレス」「気温」「湿度」「体調不良」「発汗」「衣服」「化粧品」「食べ物」などさまざまな要因によって
悪化することがあるため、取り除くことができる悪化因子はできる範囲で取り除くことも大切です。
 

アトピー性皮膚炎を悪化させる原因(因子)は、患者さんによって異なります。
たとえば、乳児のアトピー性皮膚炎では食物アレルギーが関与している場合もあり、食物制限を行うことがあります。
自己判断による食物制限などは乳児の発育や発達に重大な影響を及ぼすことがあるため、自分で判断せず病院で
検査を受け、お医者さんとよく相談をする必要があります。


また乳児期以降は、ダニなどの環境アレルゲンが関与することも多くなります。アレルゲンを特定するためには、やはり
病院で検査を受ける必要があります。
 

検査

皮膚の炎症を起こさせる原因物質(アレルゲンを含む)を見つけるために血液検査や皮膚検査などの検査を行う
ことがあります。

血液検査…アレルゲンを見つけるための検査のひとつにIgEラスト法という血液検査があります。候補物質に対して
「陽性」か「陰性」かについて調べます(ただし、この検査で陽性でもアトピー性皮膚炎の症状の出ない方もいます)。

皮膚検査…スクラッチテスト(針で少しだけ皮膚をひっかく)とパッチテスト(皮膚に貼る)があります。どちらも皮膚に
候補物質をつけて反応をみる検査です。

皮内検査…候補物質を皮膚に注射して反応をみます。

負荷試験・除去試験…原因食物を特定する時に行います。まず原因食物を食べないようにして状態を観察し、その後、
少しずつ原因食物を増やして、症状の悪化があるかどうか観察します。専門の医師によって、注意深く、時間をかけて
行う必要がある試験です。



 

●生活の中で心がけること

 

室内を清潔に保ち、適温・適湿の環境をつくりましょう
まめに掃除をして、ほこりやダニを取り除きましょう。じゅうたんやぬいぐるみはできるだけ避け、布団は日に干しましょう。
部屋は風通しをよくして、温度と湿度を適度に保つようにしましょう。
 

規則正しい生活を送り、暴飲・暴食は避けましょう
生活リズムを整えることはとても大切です。十分な睡眠、規則正しい生活、栄養のバランスの良い食事を心がけましょう。
適度な運動も有用ですが、汗をかいたらすぐにシャワーを浴びることを忘れないようにしましょう。
 

刺激の少ない衣服を着ましょう
ウールやアンゴラなど、ちくちくする繊維はかゆみを誘発することがあります。特に下着の素材には注意が必要です。手首、
首、わき、ウエスト、足首などは衣類の刺激を受けやすい部位なので、特に手触りの柔らかいものを選んでください。
 

爪は短く切り、掻きこわしで皮膚を傷つけないようにしましょう
爪がのびていると、掻いた時に皮膚に傷がつき、症状をさらに悪化させるので、短く切っておきましょう。
また掻いたあとの爪は、細菌やごみがたまっていますので、よく洗いましょう。
 

ストレス解消につとめましょう
症状について神経質にならず、気持ちをおおらかに持ちましょう。仕事などのストレスを上手に解消しましょう。

 

アトピー性皮膚炎の起こる「体質」そのものは、残念ながら、今の医学でも根本的に解決することはできません。
「完治」を目指すのではなく、「標準治療で症状を抑え、アトピー性皮膚炎のない人と同じように社会生活を送る」ことを
目指し、"病気とうまくつきあっていく"という姿勢で、症状が出ない状態を長く保って快適に暮らすことが大切です。

 

標準的な治療を行っていても、さまざまな要因によって症状が悪くなることがあります。そのような場合にも自己判断で薬の使用を中止したりせず、皮膚科専門医に相談したり、スキンケアの方法を見直したりして症状の改善を図りましょう。

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