口唇ヘルペス
口唇ヘルペスとは
ヘルペス(疱疹)とは「皮膚や粘膜に小さな水ぶくれ(小水疱)が集まった状態」のこと。一般にヘルペスウイルスによる感染症をヘルペスといいます。ヘルペスがほかのウイルス性の病気と大きく異なるのは、一度感染すると症状がなくなった後もウイルスが神経節の中にじっと潜み、生き延びている点です。そして、抵抗力が低下すると潜伏していたウイルスが神経節から出てきて増殖し、再発を繰り返します。
ヘルペスウイルスには8種類あり、そのうち、口唇ヘルペスの原因となるのは単純ヘルペスウイルス1型です。単純ヘルペスウイルスには2型もあり、それぞれの特徴は以下の通りです。
●1型……ウイルスが顔の三叉神経節に潜むため、おもに顔や上半身、とくに顔や口唇に症状が現れる。ほかに角膜炎や歯肉口内炎、咽頭炎、ヘルペス脳炎なども起こる。
●2型……ウイルスが腰の部分の腰・仙骨神経節に潜むため、下半身に発症。おもに性器ヘルペスが起こる。
口唇ヘルペスの症状
口の周りが赤く腫れ水ぶくれができます。
口唇ヘルペスの症状の出方はその人の年齢や体質、体調によって異なります。小児の初感染では、何の症状もなく気づかないケースがほとんどです。大人の場合、4~7日の潜伏期間を経て、唇や口の周りが痛がゆくなった後、3~5ミリ大の水ぶくれやかゆみなどが出ます。発熱やあごの下のリンパ節の腫れ、頭痛、倦怠感などの全身症状を伴うこともあります。再発時の症状の進行は次の通りです。
(1) 前兆として皮膚がピリピリ、チクチクするなどの違和感やかゆみ、ほてりが出る。
(2) 前兆から半日以内に赤く腫れる(ウイルスの増殖が活発な時期)。
(3) 1~3日後、赤く腫れた上に水ぶくれができる。発熱など全身症状が出ることも。
(4) 1週間前後でかさぶたになり、数日で自然に治る。
再発は年1~2回ペースで起こることが多く、通常、再発のたびに軽症化しますが、症状が重くなることもあります。
どうやってうつる?
患部を触れた手などから接触感染します。
単純ヘルペスウイルスは人から人への接触感染によってうつり、非常に感染しやすいことをまず覚えておいてください。水ぶくれの中には大量のウイルスが増殖しており、そこから次のような経路で感染します。
●患部を手で触れる。
●発症している人が使ったウイルスのついたグラスやタオルから。
●キスをして患部や唾液から。
皮膚が健康な場合でも感染しやすいので注意が必要ですが、皮膚に傷や湿疹があったり、抵抗力が落ちている人が接触すると感染する率が高くなります。
ただし、感染するのはおもに症状が出ているときだけで、ウイルスが神経節に潜伏しているときに感染することはほとんどありません。ごくまれに症状がないときにウイルスが出ていることがありますが、口唇ヘルペスではとくに問題になりません。
昔は幼少期、親子や祖父母と孫など家族間でほおずりやキスをして感染するケースが多く、ほとんどの人が1~4歳までに感染していました。実際、60代以降の日本人の9割以上が単純ヘルペスウイルスの抗体を持っています。ところが最近は核家族化や衛生面の改善などによって、10代の抗体保有率は6人に1人程度です。幼少期に一度感染するとウイルスに対する抗体ができるため、大人になって再発しても軽症で済みますが、大人になって初めて感染すると、重症化するケースが多くなります。
治療方法は?
抗ウイルス薬を使用します。
口唇ヘルペスの症状は患部を清潔に保つことで通常、1~2週間程度で自然に治ります。しかし、重症化したり、再発を頻繁に繰り返すと、水ぶくれの部分がただれて痕が残ることがあります。適切な治療をするのが早ければ早いほど症状は軽く、回復も早いので、口唇ヘルペスが疑われる場合はすぐの治療が必要です。
治療の基本は抗ウイルス薬による薬物療法です。抗ウイルス薬には外用薬と内服薬、点滴の3種類があり、症状の程度などによって次のように使い分けます。
●外用薬(軟膏)……アシクロビル、ビダラビン。ごく軽症で再発が頻繁でない口唇ヘルペスに処方。症状がそれ以上広がらないようにする効果がある。
●内服薬……アシクロビル、塩酸バラシクロビル。皮膚の症状だけでなく、神経細胞内のウイルスの増殖を抑える効果がある。
●点滴……アシクロビル、ビダラビン。初感染で重症化している場合や免疫不全の基礎疾患がある場合、アトピー性皮膚炎の人でカポジ水痘様発疹症を合併した場合などは入院して点滴の静脈内注射を行う。
治療に外用薬のみを用いることもありますが、原則的には内服薬を併用します。口唇ヘルペスは神経細胞内にもウイルスが増殖しているため、外用薬で皮膚や粘膜の病変だけを抑えることに加え、内服薬で神経節のウイルスの増殖を抑えます。内服薬は予兆が出た段階で服用すると回復が早いだけでなく、神経節に戻るウイルス量が減って再発しにくくなります。
口唇ヘルペスは一生つき合っていく病気ですが、抗ウイルス薬の使用と日常のケアによって、再発を予防することが可能です。
●抗ウイルス薬の種類
1)アシクロビル
内服薬、外用薬、点滴に使用。ヘルペスウイルスの増殖を阻害。内服薬は1日5回服用。副作用は少ないが、胃腸障害が出ることも。腎臓病の人は服用に注意が必要。
2)塩酸バラシクロビル
内服薬に使用。アシクロビル系抗ウイルス薬。体内でアシクロビルに変換されて効果を発揮する。アシクロビルより吸収率がよく、1日2~3回服用。
3)ビダラビン
外用薬、点滴に使用。ヘルペスウイルスの増殖を抑える。初期の使用で悪化を防ぎ、治癒を早める。早期に使うほど効果が出る。副作用は皮膚の刺激感、かゆみ、発赤など。