甲状腺は、のどぼとけの少し下にある首の下方についている小さなハート型の臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンはfT3(フリー・トリヨードサイロニン)、fT4(フリー・サイロキシン)の2種類から成り、全身の細胞に活力を与える働きをもっています。
甲状腺の働きが活発な状態、すなわち甲状腺ホルモンの分泌が盛んな状態を、甲状腺機能亢進症といいます。甲状腺機能亢進症は、TSH受容体抗体(ティーエスエッチじゅようたいこうたい(TRAb))、甲状腺刺激抗体(TSAb)という特殊なタンパク質が甲状腺を直接刺激してしまうことによって発病します。その結果、甲状腺ホルモンの分泌が盛んになるため、血液中の甲状腺ホルモン値が高くなります。女性に多く見られることが特徴です。しかしTSH受容体抗体がどうして出来てしまうのかは全くわかっていません。
一般的に甲状腺機能亢進症では、食べても食べてもやせてしまう、つかれやすい、よく眠れない、心臓がどきどきするなどの動悸(どうき)、汗をかきやすい、下痢しやすい、(女性では)生理がなかなか来ないといった症状があります。また、手の指が小刻みに震える、毛が抜けやすいといった症状も見受けられます。(全ての症状が出るわけではありません)
・バセドウ病眼症(バセドウびょうがんしょう)
甲状腺機能亢進症のうち、甲状腺機能亢進症で最も頻度が高いのがバセドウ病です。バセドウ病に伴う症状では、眼球突出(がんきゅうとっしゅつ)という、眼が前に突き出たような状態になることがあります。これをバセドウ病眼症といいます。甲状腺機能亢進症を適切に治療することによって眼球突出の改善がみられるケースもありますが、眼球突出の程度が強いものは内科の治療と同時に眼科での専門的な治療を要します。なお、タバコはバセドウ病眼症を悪化させますので、禁煙指導が行われます。
甲状腺が比較的柔らかくはれていて、痛みやしこりがなく、血液検査で甲状腺ホルモン(fT3および/またはfT4)値が高ければ、甲状腺機能亢進症が疑われます。そして、血液検査でTSH受容体抗体もしくは甲状腺刺激抗体(TSAB)がはっきりと陽性であることが確認できれば、甲状腺機能亢進症の可能性が高いと判断し、専門的な治療が行われます。
しかし、甲状腺機能亢進症の中にはTSH受容体抗体が陰性~弱陽性のケースがあり、血液検査だけでは診断が難しいことがあります。この場合は、ラジオアイソトープを用いた画像検査が行われます。123Iという放射性ヨードのカプセルを飲み、24時間後に甲状腺に取り込まれている放射性ヨードの量を測定します。甲状腺機能亢進症では、取り込みの割合(放射性ヨード摂取率)が高くなることが特徴であり、この検査によって正確な診断を行うことが可能となります。
治療法には薬物療法、ラジオアイソトープ療法、手術療法の3つがあります。
1.薬物療法
甲状腺機能亢進症とはじめて診断された場合、一般的には抗甲状腺薬(こうこうじょうせんやく)による薬物療法で治療をはじめます。通常は甲状腺ホルモンの値をみながら、徐々に減らしていきます。1日1錠あるいは1日おきで1錠というところまで減らし、そのまま1年~2年近く維持量として内服を続けます。その後、(TSH受容体抗体の値にもよりますが)甲状腺ホルモン値が正常であれば、抗甲状腺薬の中止を検討します。しかし、中止したあとの再発率は約70%と高いのが現状です。
2.ラジオアイソトープ(RI)療法
甲状腺に取り込まれるヨードを利用した治療です。甲状腺を破壊するような放射能をもつヨード(放射性ヨード)を内服します。内服した放射性ヨードは甲状腺に取り込まれ徐々に甲状腺を破壊していくことで甲状腺ホルモンを正常に保つ治療です。
治療の手順は、ラジオアイソトープをつめたカプセルを1回飲むだけです。効果判定は半年後に行います。効果が不十分であった場合は、繰り返して治療を行うことも可能です。
治療の注意点としては、経過中に甲状腺ホルモン値が一時的に悪化したり、治療後何年もしてから甲状腺の働きが悪くなることがあります。妊婦さんならびに授乳婦さんでは赤ちゃんの健康を配慮し、ラジオアイソトープ治療は行うことができません。
3.手術療法
甲状腺を一部だけ残して取り除いてしまう方法です。早くて確実な結果が期待されます。甲状腺のはれが非常に大きいケースや、甲状腺に腫瘍(しゅよう)が合併している場合は手術療法が勧められることがあります。また、副作用の問題で抗甲状腺薬が使用できないか、あるいは抗甲状腺薬で治療効果が得られず、さらにラジオアイソトープ治療も行えない場合にも手術を検討します。
甲状腺機能亢進症との区別がまぎらわしい病気
妊娠による一過性(いっかせい)甲状腺機能亢進症
妊娠8週~12週くらいをピークに、つわりの時期と重なるように甲状腺ホルモンが高くなることがあります。これは胎盤(たいばん)から分泌されるヒト絨毛性(ヒトじゅうもうせい)ゴナドトロピンというホルモンが、直接甲状腺に刺激を加えることが原因です。一時的なものですので一般的には治療を要しませんが、通常の甲状腺機能亢進症との区別が難しいケースがあります。