伝染性単核症とは

 伝染性単核症(infectious mononucleosis、以下IM)は思春期から若年青年層に好発し、大部分がEpstein-Barrウイルス(EBV)の初感染によっておこる。主な感染経路はEBVを含む唾液を介した感染(一部、輸血による感染も報告されている)であり、乳幼児期に初感染をうけた場合は不顕性感染であることが多いが、思春期以降に感染した場合にIMを発症することが多く、kissing diseaseとも呼ばれている。EBVの既感染者の約15%~20%は唾液中にウイルスを排泄しており、感染源となりうる。
 

疫学

 IMは、1889年Pfeifferらによって腺熱として初めて報告された疾患で、IMという名称は1920年SpruntとEvaneらによって初めて用いられるようになった。
 

病原体

 ほとんどがEBVの初感染によるが、一部サイトメガロウイルス(CMV)、HHV-6、アデノウイルス(ADV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、トキソプラズマ、リケッチアによっておこりうる。EBVはヒトヘルペスウイルス科γ亜科に属する約172kbpの2本鎖DNAウイルスで、直径は約150~220nmである。ヘルペスウイルスの性質上、ひとたび宿主に感染すると一生その宿主に潜伏感染し、免疫抑制状態下で再活性化する性質を有する。
 

臨床症状

 4~6週間の長い潜伏期を経て発熱、咽頭扁桃炎、リンパ節腫脹、発疹、末梢リンパ球増加、異型リンパ球増加、肝機能異常、肝脾腫などを示す急性感染症である。また、中枢神経症状を呈する症例が認められる。発熱は高頻度に認められ、多くの場合38℃以上の高熱で1~2週間持続する場合が多い。扁桃には偽膜形成を認め、口蓋は発赤が著明で出血斑を認めることもあり、咽頭痛を伴う。リンパ節の腫脹は1~2週頃をピークとして全身に認められるものの、頚部が主である。
 発疹は主に体幹、上肢に出現し、斑状、丘疹状の麻疹様あるいは風疹様紅斑であり、その形態は多彩である。アンピシリン(ABPC)を内服すると薬疹を生じて、鮮明な浸出性紅斑様皮疹や丘疹などを呈す。
 肝機能異常はほとんどの症例で認められるが、黄疸を伴うことはまれである。
 合併症と認められる中枢神経症状には、無菌性髄膜炎、脳炎、急性片麻痺、Guillain-Barre症候群、視神経炎、脳神経麻痺、末梢神経炎、横断性脊髄炎、急性小脳失調、中枢神経系のリンパ腫などが含まれる。
 

病原診断

 EBVに対する抗体反応検査には多くの種類がある。これらを総合的に判断してその病態を理解することが重要である。
 EBV特異抗体は大きく分けてVCA(viruscapsid antigen)抗体、EA(early antigen)
抗体、EBNA(EBV nuclear antigen)抗体の3種類がある。
 

治療・予防

 特異的な治療法は現時点では存在しないことと、一般的にはself-limitingな疾患であるため、対症療法で治療することがほとんどである。IMの診断が得られる前に抗菌薬を使う例も見られるが、ABPCを内服すると薬疹を認めることがあるため、この薬剤は避けるべきである。また、重症例や致死的IMが疑われる場合には、抗ウイルス剤を併用したウイルス特異的な治療法が必要になると考えられる。Acyclovirは鼻咽頭へのウイルスの排泄は抑制するものの、症状の改善には効果が認められていない。Ganciclovir,foscamet,vidarabine
(Ara-A)などの有効例が報告されているが、いずれも重症型の慢性活動性EBV感染症などに用いられているのみである。また、最近移植医療の進歩に伴い、EBVによるPTLDの発症が問題となっているが、そのような病態の場合には、化学療法やEBV特異的CTL療法、抗CD20単位クローン抗体、造血幹細胞移植などの治療法が試みられている。
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