ブルーリ潰瘍とは

ブルーリ潰瘍(Buruli ulcer)とは細菌の一種である抗酸菌のMycobacterium(M) ulcerans、またはその近縁のM.ulcerans subsp.shinshuenseが原因で発症する、潰瘍などの皮膚病変を主症状とする感染症である。
「ブルーリ潰瘍」の名前の由来
アフリカのウガンダのブルーリ地方で「大きな皮膚潰瘍」の患者が多くいたことから「ブルーリ潰瘍」といわれてきた。その後西アフリカ地域をはじめオーストラリア、メキシコなどでも報告されてきた。日本では1980年にブルーリ潰瘍に類似した症例が報告され、その後患者が増えてきた。

原因菌、M.ulceransおよびM.ulcerans subsp.shinshuenseの性状
両菌の主な性状を表1に示した。通常は環境中(土中や水中などと考えられる)にいる菌で、至適温度は30-33℃だが、25℃程度の室温でも増殖可能。日本の患者から検出された原因菌はすべてM.ulcerans subsp.shinshuenseである。
 

感染経路

 
ブルーリ潰瘍の感染経路は、未だ不明である。これまでの疫学調査では、川辺や池、湿地などの周辺の住民に患者が多いことが知られている。菌を持っている動物(保菌動物)や媒介生物などに関しては諸説あり、今後のさらなる調査が必要である。ヒトからヒトへの感染は報告されていない。
 
猛毒マイコラクトン
菌はマイコラクトン(mycolactone)という毒素を産生する。この毒素は細胞傷害性に働き、免疫抑制作用があり、さらに細胞を壊死させるために皮膚潰瘍を形成する。また末梢神経のシュワン細胞を障害するために潰瘍になっても患者は痛みをほとんど自覚しない。
 

臨床症状

一般的な好発部位は、裸露部である上肢や下肢、時に顔面である。初期には、虫刺され様の紅班から紅色丘疹である。徐々に直径数cm大の無痛性の皮下結節に進行する。その後、数日から数週間でその中心部が自壊し、潰瘍になっていく。痛みは無いか軽度だが、二次感染を伴う場合は疼痛を認める。
発熱はまれで、全身状態は良好なことが多く、ブルーリ潰瘍が死因となることはまれである。しかし、診断・治療が遅れると、関節の屈曲や皮膚に巨大潰瘍などの後遺症が残る。
 

診断

菌の検出には①潰瘍底や潰瘍側面などを綿棒で擦過するスメア検査、②皮膚組織や膿などを培養する検査、③病変部から菌のDNAを検出するPCR検査がある。さらに原因菌のM.ulceransまたはM.ulcerans subsp.shinshuenseを同定できれば確定診断になるが、その検査には数ヶ月を要する。
 
日本においてはブルーリ潰瘍の診断は、①潰瘍を伴う皮疹(疼痛は不定)、②皮膚の病理組織検査で壊死を認める、③PCR検査(ブルーリ潰瘍特異的なIS2404遺伝子を検出)で陽性、の3項目を満たす事で行っている。
 
類似した病気(鑑別診断)には皮膚結核、ハンセン病、リーシュマニア症、ハエ幼虫、炭疽などの熱帯皮膚感染症、糖尿病性潰瘍、褥瘡、壊疽性膿皮症、壊死性筋膜炎、リポイド類壊死、悪性腫瘍、虚血性疾患、炭疽、外傷などがあるので、皮膚科医による診療が必要である。
 

治療・予防

抗酸菌感染症であるので、抗菌薬(抗生物質)内服治療(リファンピシンやクラリスロマイシン、キノロンなどを数種類内服)が主になる。潰瘍が大きい場合には外科治療も必要で、植皮を考慮する場合もある。
感染源などが特定されていないので確実な予防対策はない。特に日本においては患者数が少なく、病気の全体像が不明なため予防対策より早期診断が重要である。
 

疫学

日本の状況:
日本におけるブルーリ潰瘍は、1980年、19歳女性の左肘関節伸側に発生した報告が初めてである。その後2012年末までに36名の患者が確認されている。国立感染症研究所ハンセン病研究センターでは日本での中核的センターとし、症例の集積や検査、疫学的検討、治療法、潰瘍の治療法などの検討を行っている。
世界の状況:
30カ国以上からの報告があり、年間約5000人の新患が報告されているが、実際はさらに上回ると考えられている。WHO(世界保健機構)では、ブルーリ潰瘍を「顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases:NTD)」のひとつとして重要視し、1998年に、Buruli Ulcer Global Initiativeを発足させ、診断・治療・予防・研究に精力的な活動を行っている。
 
注)NTD:熱帯地域を中心に蔓延している寄生虫や細菌による感染症(現在ブルーリ潰瘍やハンセン病など17の病気)で、貧困層を中心に世界の約10億人が感染し、年間約50万人が死亡していると言われている。これらの熱帯病は先進国でほとんど患者がいないために、これまで世界の関心をを集めることがなかった。
 

これからの課題

ブルーリ潰瘍は熱帯皮膚病と考えられていたが、日本でも存在する感染症である。患者数は近年増加しているが、早期診断・治療することで後遺症を残さず治癒に導くことが可能である。
 
今後、ブルーリ潰瘍の感染様式、特に感染源やベクター(媒介生物)の解明を行い、感染ルートを明らかにして予防につなげる必要がある。また早期発見のために皮膚科医を中心に啓発に努め、さらにアジア諸国と連携をもって、各国でのブルーリ潰瘍の発見をサポートすべきである。
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