褥瘡とは

「褥瘡」は「床ずれ」とも呼ばれ、ベッドのマットや布団、車いすなどと接触する部分の皮膚が長い時間続けて圧迫されることで、皮膚や皮下組織、筋肉などが死んでしまった状態です。皮膚や皮下組織、筋肉への血流が悪くなり、酸素や栄養が行きわたらなくなるために起こります。

皮膚の同じ部分(特に骨が突出している部分)への圧迫が持続することで起こります。

ベッドのマットや布団、車いすなどにより外から圧迫を受けると、体の中では皮膚や皮下脂肪、筋肉などを押しつぶそうとする力、左右に引っ張ろうとする力などがかかります。これらが複雑にからみあって血流が悪くなり、皮膚や皮下組織、筋肉などに酸素や栄養が行きわたらなくなります。

自分で体を動かすことができる人は、無意識のうちに体を動かしたり、寝返りをうったりして、体の同じ部分に長時間の圧迫がかからないようにしています。しかし、自分で体を動かすことができない人は、皮膚の同じ部分に長時間の圧迫がかかることになり、それが褥瘡発生につながります。

また、褥瘡を発生させやすくしたり、治りにくくしたりする原因にもさまざまなものがあります。

●皮膚における原因
(皮膚は弱くなると外からの刺激でダメージを受けやすい)
・摩擦やずれ※がおき、皮膚が弱くなっている状態。
※ずれとは、ベッドのマットや布団で上体を起こすとき、体を動かすとき、体を拭くときなどに、皮膚の表面と皮膚の内部が互い違いにずれることです。
・皮膚が乾燥して弱くなっている状態。(年をとると肌が乾燥しやすくなります)
・汗や尿・便などで皮膚が汚れたり、ふやけたりしている状態。

●全身的な原因
・食事を十分に摂れず、栄養状態が悪い状態。
・やせている状態(皮下脂肪が減少し、骨が突出している状態)。
・骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、糖尿病、心不全、認知症などの持病が原因で、体を動かしにくい、痛みを感じにくい、血流や栄養状態が悪い状態。
・抗がん剤、ステロイド剤などの薬を使用している場合(皮膚が感染を起こしやすくなっている状態)。
・むくみがある状態。

●社会的な原因
介護力(マンパワー)の不足。
福祉制度・サービスなどに関する情報の不足。


症状と治癒課程


褥瘡ができた直後から約1~2週間の時期を急性期、それ以降を慢性期とよびます。
褥瘡は急性期をすぎると、以下の3つのいずれかの経過をたどります。
・慢性期に移行せず、赤みが消えて治ります。
・慢性期に移行し、浅い褥瘡になります。
・慢性期に移行し、赤みが黒色に変わり、深い褥瘡(床ずれ)になります

急性期では、皮膚に赤みや内出血、水ぶくれなどができます。

慢性期の褥瘡(床ずれ)は、傷の深さによって治り方が異なります。

浅い褥瘡:
死んだ組織がほとんどなく、新しい皮膚をつくる元となる細胞や毛根も残っているため、そこから新しい皮膚が再生し、比較的短期間で治ります。症状は、急性期と同様で皮膚の赤みや内出血、水ぶくれなどです。
深い褥瘡:
死んだ組織が多くあり、それを取り除くことによって初めて、そこに新しい組織ができて傷が治ります。治るまでに長い期間を要します。

最も褥瘡ができやすいのは、寝たきりあるいは1日のほとんどをベッドのマットや布団、車いす上で過ごし、自分で姿勢を変えることが難しい人です。

その他、褥瘡をできやすくする原因をもっているのは、
・食事が十分に摂れない状態が続いている人(栄養不良の人)
・関節が固まり(拘縮<こうしゅく>)、こわばっている人
・尿失禁・便失禁が続いている人
・持病(骨粗鬆症、糖尿病、心不全、認知症など)が急に悪化している人
・むくみがある人
などです。

褥瘡予防の第一歩は毎日の皮膚観察です。

皮膚の赤みを発見したら、その部分が圧迫されないように体の向きを変えてみます。30分後、皮膚の赤みが消えていれば褥瘡ではありません。赤みが消えない場合は褥瘡(床ずれ)の可能性がありますので、自己判断せず医師や看護師などに相談しましょう。

褥瘡ができやすいところは、骨が突出していて、ベッドのマットや布団、車いすなどで圧迫されているところです。おむつ交換や着替え、入浴のときなどに褥瘡ができやすい部分を重点的に観察しましょう。

圧迫、ずれを減らすためのケア 

体圧分散ケア

体圧分散ケアとは、ベッドのマットや布団、車いすなどから体の表面に加わる圧力を分散させて、体の一部分に集中して加わる圧力をできるだけ小さくするためのケアです。

体圧を分散させるケアには、体の向きや姿勢を変える体位変換や、体の形にフィットするマットレスなどの体圧分散用具を使うケアなどがあります。

褥瘡ができるのを予防するには、骨が突出している部分に加わる力を小さくし、負荷がかかる時間を短くします。そのためには、皮膚にかかる力を分散させた姿勢にし、適度に体の姿勢や向きを変えることが重要です。

スキンケア

スキンケアとは、皮膚を健康な状態に保つために皮膚を清潔にして、乾燥しすぎないように保湿することです。予防のためだけではなく、褥瘡がある場合にも重要です

皮膚を清潔に保ち、乾燥から守るために

体の洗い方、拭き方(褥瘡がない部分)

●洗い方
・弱酸性の石けんやボディシャンプーをタオルやスポンジでよく泡立て、ゴシゴシこすらずに泡で包むようにやさしく洗いましょう。
・洗浄剤が皮膚に残らないよう、人肌程度のぬるま湯で十分に洗い流しましょう。

●体の拭き方
・体を洗えないときは、やわらかいタオルで体を拭きます。
・温かい蒸しタオルを用意し、四つ折りくらいで押しあてて、こすらないように拭いてください。
・顔→手→腕→胸→腹→背中→足の順番にやさしく丁寧に拭きます

●アフターケア
・清潔なタオルでやさしく押さえるようにして水分をよく拭き取ります。特に耳、手足の指の間、陰部、おしりの間などは、柔らかいタオルで丁寧に拭き取りましょう。
・皮膚が乾燥するので、保湿剤をぬって乾燥を防ぎましょう。

褥瘡ができたときは、医師の指示に従い処置が行われます。ただし、処置の方法は患者さんの症状によって変わります。医師や看護師の説明をよく聞きましょう。
 

保湿

乾燥した皮膚は汗や尿・便、衣類の接触、圧迫などによってトラブルを起こしやすくなります。
・皮膚が乾燥しているときは、保湿剤をぬりましょう。
・高齢者や全身の状態が悪い患者さんは体温調節がうまくいかないことが多いので、室内を適度に換気したり、冷暖房機器を使用したりしましょう。
・室内の湿度が40%以上になるよう、加湿器などを使用しましょう。

むくみのある場合

むくみとは、皮膚の内部に水分が異常に溜まった状態のことです。むくみがあると皮膚が引き伸ばされて薄く弱くなるため、皮膚が傷つきやすくなり、また、皮膚の乾燥は角層内の水分が減少した状態です。乾燥した角層はひび割れの状態となり、外的刺激や感染への抵抗力が弱くなります。そのため、外傷や乾燥を防ぐケアが大切です。

●外傷、圧迫を防ぐ
・伸びた爪で皮膚を傷つけないように患者さんも介護者も爪をこまめに切りましょう。
・ベッドの柵にぶつかって傷つかないように、柵をカバーで覆いましょう。
・靴下や下着のゴムなどで圧迫しないようにしましょう。
・体の下になる部分にむくみが起こりやすいため、長い時間同じ姿勢にならないようにしましょう。
・皮膚を強くこすらないようにしましょう。

●皮膚の乾燥を防ぐ
皮膚が乾燥するとかゆみを感じることがあり、掻(か)くことで、皮膚を傷つけてしまうことがありますので、乾燥しないように、保湿剤をぬりましょう。

発汗し、皮膚がふやけている場合

汗を多くかくことにより皮膚がふやけると、摩擦やずれが生じやすくなったり、傷つきやすくなったりします。これらを避けるために、汗に対するケアが大切です。

●汗をかかないためのケア
・ベッドのマットや布団(シーツなど)は吸水力があり、熱を逃しやすい素材を選びましょう。
・室温・湿度を調整しましょう。
・寒いからといって毛布や布団をかけすぎたり、下着や寝巻きを重ね着しすぎたりしないようにしましょう。
・電気毛布などを使用している場合は、汗をかかない程度の温度に設定しましょう。
・下着や寝巻きは着替えやすいサイズや素材を選びましょう。

●汗をかいたときのケア
・汗のついた下着やベッドのマットや布団が皮膚に長く触れていると、皮膚がふやけたり体温が下がったりしやすいため、なるべく早く汗を拭き取り、ベッドのマットや布団、下着を交換しましょう。下着の下に汗取り用タオルを着けてもよいでしょう。
・汗を拭き取るときは、乾いたタオルやガーゼを使い、皮膚を軽く押さえるようにしましょう。

尿、便失禁がある場合

・皮膚に尿や便が長い時間ついたままにしないようにしましょう。
・尿失禁がある場合は、 吸水性が高く逆戻りしない通気性のよいタイプで、体にフィットするおむつを選びましょう。排泄口の周囲以外に尿が広がらないようにあて方を工夫しましょう。
・便失禁がある場合は、オイルを含ませたコットンかペーパータオルで軽く押さえるようにして、こすったり、皮膚の油分を取りすぎたりしないようにしましょう。
・皮膚に水分がつくのを防ぐため、水をはじくクリームやオイルなどをぬりましょう。 
・おむつを何枚も重ねると蒸れたり圧迫されるので、重ねないようにしましょう。
・できるだけ排泄のたびにおむつ(パッド)を交換しましょう。
・失禁するたびに皮膚を洗うとふやけてしまうため、洗浄はできるだけ1日1~2回までにしましょう。
・皮膚に摩擦やずれが繰り返し加わると、皮膚が弱くなってしまいます。おむつを交換するときは、無理にはぎ取らないようにしましょう。

栄養管理

栄養が不足すると褥瘡になりやすくなり、また治りにくくなります。

特にお年寄りは味覚の低下や摂食障害、食べ物をうまく飲み込めないなどの原因によって、栄養不足になりやすくなっています。栄養不足は気がつきにくいため、体の状態を定期的に確認して、適切に栄養管理を行うことが大切です。

特に以下の体の状態に注意しましょう。
・食事摂取量や水分摂取量。
・皮膚の張りやたるみの状態。
・やせの状態(骨の突出具合)。
・むくみの状態。
・排泄(排尿・排便)の状態。
・睡眠の状態。
・吐き気や嘔吐(おうと)などの気分不良の状態。
栄養管理の方法には、必要栄養量の確認や栄養を摂るための具体的な工夫、口腔(こうくう)ケアなどがあります。

褥瘡(床ずれ)の予防とケアでは、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどをバランスよく補うことが大切です。ただし、体重や持病により必要な栄養素、水分、エネルギーは異なりますので、医師や看護師などの指示に従いましょう。

リハビリテーション

寝たきりの状態で体を動かさないでいると、食欲がおちたり、筋肉の萎縮や関節の固まり(拘縮<こうしゅく>)やこわばりが起こります。
関節の固まり(拘縮)やこわばりが起こると、姿勢を変えたり寝返りをうつことが難しくなり、褥瘡(床ずれ)ができやすくなります。
予防のために、介護者が患者さんの関節を動かし、安定した体位(姿勢)を保つようにします。


治療


褥瘡(床ずれ)の治療では、薬剤などによる治療に加え、圧迫、ずれ、あるいは全身状態や栄養状態の悪化など、褥瘡(床ずれ)が発生した原因を取り除くケアをすることが大切です

急性期褥瘡の治療

急性期の傷の治療では、傷を保護し、適度な湿り気を保つことが大切です。

褥瘡を覆い保護するドレッシング材(被覆材)による治療
ドレッシング材(被覆材)を傷に貼ることにより、傷を保護し、適度な湿り気を保つことができます。急性期は、傷を毎日観察する必要があるため、はがしやすく透明なドレッシング材(被覆材)を使用します。

ぬり薬による治療
傷の保護、感染の抑制、滲出液(しんしゅつえき:傷から出る黄色い体液)や膿(うみ)の吸収、水分の補給などの作用をもつ多数のぬり薬があります。しかし、これらを全て兼ねそなえた万能のぬり薬は存在しません。傷の状態に適したぬり薬を選ぶことが大切です。

また、ぬり薬をぬった上を何で覆うかも重要な問題です。滲出液が多い傷にぬり薬をぬってガーゼで覆っても構いませんが、滲出液の少ない傷にはぬり薬をぬって透明なフィルムなどで覆い、適度な湿り気のある状態を保つようにします。経験の豊富な医師や看護師の指示に従ってください。

慢性期の褥瘡の治療

浅い褥瘡と深い褥瘡それぞれに対応した治療をします。

浅い褥瘡の治療
浅い褥瘡の傷では、急性期の治療と同様にドレッシング材(被覆材)やぬり薬を使用して傷口を保護し、適度な湿り気を保つことにより皮膚が治りやすくなります。

深い褥瘡の治療
深い褥瘡の傷では、死んだ組織を手術やぬり薬などで取り除きます。そこを埋める新しい組織をつくるために、ぬり薬などを用いて傷を小さくします。

また、同時にぬり薬やドレッシング材(被覆材)を使用し、皮膚の再生をしやすくします。炎症や感染、傷口から黄色い体液がにじみ出ている場合は、ぬり薬により治療を行います。傷口が小さくても中にポケットと呼ばれる大きな穴洞がみられる場合は、手術や薬剤などにより治療します。

褥瘡の一般的な治療法としては、ぬり薬やドレッシング材(被覆材)を用いた保存的治療、手術による外科的治療があります。

●ぬり薬を用いた治療
褥瘡(床ずれ)の治療では、傷の状態によって以下のようなさまざまな効果のあるぬり薬を使い分けます。
・傷を保護する薬
・炎症、感染を抑える薬
・死んだ組織を取り除く薬
・滲出液(しんしゅつえき:傷から出る黄色い体液)や膿(うみ)を吸収する薬
・皮膚の細胞の増殖にはたらきかける薬

●ドレッシング材(被覆材)を用いた治療
ドレッシング材(被覆材)は、直接傷を覆うものです。その機能によって以下のように大きく3つに分類されます。
・傷を保護し適度な湿り気を保つ。
・乾燥した傷を適度に湿った状態にする。
・傷口から出る黄色い体液を吸収し、適度な湿り気を保つ。
傷を十分に覆い、しわにならないように貼ります。はがすときは傷や周囲の皮膚に無理な力がかからないように気をつけましょう。

●外科的治療(手術療法)
皮膚を移植して傷を閉じるなどの手術を行います。なお、保存的治療を行うときでも、死んだ組織をメスやハサミなどで取り除いたり、ポケットを切開することがあります。

●消毒・洗浄
消毒は傷が細菌感染を起こしやすい時期に行うことがあります。
洗浄することも細菌感染を防ぐのに大切です。感染している場合には、消毒液による消毒を行うこともあります。

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